明日、会社爆発しないかな。

一年くらい前に見た夢を文章にしてみました。

ありきたりなストーリーで何せ夢なのでおかしな点もあるかと思いますが、誤字脱字も含めご了承いただき楽しんでいただければ幸いです。

明日、会社爆発しないかな。

 田中
 36歳
 地方スーパー勤務
 雇われ店長

 ここのスーパーの入社式には社長は来ない。
 ここのスーパーの入社式は抜け出してはいけない。
 ここのスーパーの裏にある巨大な白い建物の中には入ってはいけない。

 ******

「え?今日裏の敷地で改修工事あるの?俺聞いてないよ。」
 入社式を抜け出したのがばれたら大変なことになると聞いた。
 でもなぜか裏に置いた自転車がすごく気になる。あれがないと俺は帰れない。
 少し確認するだけだ。少し確認するだけ。
 ゆっくりと後ずさりながら体育館の扉のような入口から出る。
 いつもならば体育館ホールの扉の外は遠くに木がたくさん生えていて人工芝がひいてある爽やかな公園のような広場が広がっている。そこの端の方に自転車置き場がある。
 --はずが。
 外に出ると目の前に見たこともない景色が広がっていた。
 燃える松明、たくさん並べられたパイプ椅子。そこに座り正面の人物に向かって手を合わせながらぶつぶつと祈っている人々。
(今は夜だったか?)
 外のステージの上に立つ白髪の恰幅の良いベージュのスーツを着た男性。
(社長……?)
 ゆっくりと社長が田中の方を向き仏のように微笑む。
(い、今、目があった?じ、自転車は自転車を探さないと、いや早く戻らないと。)
 走って逃げたせいで出てきた扉ではなく体育館裏の後ろの扉から中に入る。
 その扉はスーパーのくだもの売場のバックヤードにつながっていた。慌てて「入社式へ戻らないと」と伝える。
 (入社式を抜けたことがバレたら殺される。は、早く戻ってずっといたことにしないと。)
 短髪のパーマのにこやかなおばちゃんに手を引かれ案内される。
「入社式?こっち、こっち!」
(こんなおばちゃんいたっけ?)
 面倒見のよさそうなおばちゃんは終始笑顔で楽しそうに田中の腕を引っ張る。
「さあ、ここからどうぞ。」
 ひんやりと冷たい空気が漏れ出る透明なビニールカーテンの奥へと促される。
「私はここまでしか行けないので、この先は中の人に案内してもらってください。幸枝さん!幸枝さん!入社式ですって!」
 くだもの売場のおばちゃんが大きな声で中の人を呼ぶ。
 ビニールカーテンには霜がついており、ひんやりとした空気が流れてくる。
 幸枝さんと呼ばれた女性は光沢のある黒いエプロンに真っ白な衛生帽に髪の毛をしっかりと中に入れて被り大きな肉切り包丁を持っている。髪をすべて帽子に入れているにもかかわらず幸枝さんは冷たい雰囲気ではあるが美しい顔をしていた。
 精肉売り場の裏側なのか中の人はみんな幸枝さんと同じ服装で大きな肉切り包丁を持ち真っ黒な光沢のあるエプロン以外の箇所は返り血が飛び散って汚れている。大きな肉の塊がいくつも吊るされぐちゃぐちゃとさばく音やドンドンという大きな音がしてうるさい。
 幸枝さんは「今忙しいから案内できない!入社式はあっちだよ!」と肉をさばきながら血だらけでさらにビニールカーテンの奥を指さす。幸枝さんがさばいているのは白い腕のように見えた。
 案内されているのに田中は少しも安心することができず恐怖におびえながら、自分がここに関係のない人間だと知られてはいけないということを本能的に感じた。謎の恐怖と早く戻らなければという焦りでヨレヨレのスーツの中は汗でびしょびしょだった。
 幸枝さんに一礼して逃げるように奥に進むといくつもの業務用冷凍庫のような扉があり開いていた扉の中をのぞくと花畑の中で白いワンピースを着て踊っている人たちの姿が見えた。
 さらにバックヤードを奥に進むと室内にも関わらず芝生が広がり蝶が舞い花が咲き暖かい木漏れ日を感じる場所にでた。
 芝生の上で白い服を着ている人たちがみんな笑顔で楽しそうに集まって話している。
「はぁ、はぁ、ほはぁー。」
 スーパーの裏手に広がる穏やかな光景にやっと肩の力が抜ける。
 芝生の上を道しるべのように敷き詰められた四角いタイルで出来た通路の上を歩いていく。
 出口を探しキョロキョロしながら歩いていると茶色の紙袋を被らせれ後ろ手に手をしばられた男たちが両膝をついて横一列に並べられているのが見えた。
 麻袋を被り上半身裸のファイヤーダンスのような衣装の男が両端に火のついた棒を回してどんどん紙袋を被らされ怯えながら並べられている人たちを燃やしていく。燃やされた人たちの体は黒焦げになり大量の油が溢れ流れていった。
 少し遠くの芝生で話している人たちはまったく気にする様子もなくただ楽しそうにしている。
(なんで、誰も反応しないんだ。)田中はまた一歩後退る。恐怖が戻ってきて冷や汗が流れた。
 そしてなぜだか分からないが自分の存在がばれてしまったら自分が燃やされる気がした。
 急いで奥へ進むと今度は木を三角のテントの骨組みのようにつなぎ合わせた粗末な檻の中にガタガタと小さな体を震わせながら抱き合って入っている幼い姉弟の姿が見えた。男はその姉弟を閉じ込めている檻の木にも火をつけた。火は瞬く間に大きく燃え上がり檻は焼け落ち芝生の上に大きな水たまりのように溜まった油だけが残っていた。
(な!な、ど、どうかしている!早く逃げないと!)
 腰が抜けて座ったまま動けずにいると、芝生と湖のほとりの石で舗装された道をスーツを着た人たちが雑談をしながら時に笑い声をあげ優雅に歩いて来る。
(社長!それに広末と玉城?)
 にこやかに笑う社長とポニーテール姿にスカートのリクルート姿の広末、スッとしたイケメンの同僚の玉城。その後ろにも数人のスーツ姿の人たちがいる。
 この気味が悪い空間の中に同僚の姿を見つけ少しホッとしたが同時に(玉城と広末のことをいい囮だ。)と思ってしまった自分が嫌になる。
(このまま見つかったら俺は殺されてしまう!)
 逃げなければと思ったが大きな広場は隠れるところなんてどこにもない。
 その時、ナイフを持った男が社長に向かって突っ込んでくる。その男の周りには赤で文字が書いてある白い麻袋を被り首のあたりに巻いた縄で麻袋をしっかりと固定された人たちがナイフを持った男を止める気があるのかないのか取り囲み、べたべたと撫でるように触っている。
 両手でナイフを持った短髪の若い男はそれを気にする様子もなく泣き笑っている表情をしながら社長へ向かって行く。
 後続のスーツの人たちは驚いて左右に道を開ける。
 田中は社長がそのまま殺されることを願った。
 しかし社長が刺されそうになった時、玉城が社長の前に飛び出した。玉城は何度も腹を刺され口から血を吐きそのまま倒れた。
 ナイフを持った男は高らかに笑っていたが周りの麻袋を被った人々に取り押さえられ同じように麻袋をかぶされ首を縄でしばられると笑いながら芝生の方へと連れて行かれてしまった。
 広末は血だらけの玉城を膝に寝かせ天を仰ぎ大きな声で泣き崩れた。広末は玉城のことが好きだったのだ。
 社長はにこやかな笑顔でそれを見つめ、他のスーツの男たちは慌てふためいている。
 田中は見つかる前になんとか小鹿のように立ち上がるとバランスを崩しながら走って逃げ出す。
 またビニールカーテンを潜るとコンクリートとパイプが剥き出しの緑の淡い光が灯る大きな倉庫のような場所に出た。そこにはリクルートスーツを着た女性たちがたくさん立ってステージを見つめている。
 ステージでは生産性の話や報酬の説明をしていた。
 後方で「早く手術して!」という女性の金切り声がする。
 女性は医療用のストレッチャーベッドに両手を手錠でつながれ寝かされていた。女性が「もっと儲けがほしいの!早く手術して!」と暴れる度に手錠がガチャガチャと音を立てる。
 リクルート姿の人たちは「そこまでして儲けたいの?」などとコソコソとはなしている。
 繋がれた女性の周りを緑の手術着を着た数名の女医らしき人たちが取り囲んでおり「はい、はい。わかった!」とその場で手術を始める。
   生産性をあげるため麻酔なしで子宮移植手術をするというのだ。最高で子宮を四つまで増やせるらしい。
 しばらくすると叫び声は止み女性は案の定、血だらけになり腕をだらんと垂らし動かなくなった。
 後ろの騒ぎの間も入社式は続けられており、亡くなった女性のことを完全に人間扱いしていない女医の一人が「ホルスタインの癖に牛のギャグにわらわなかったよ。こいつ。」といい放ち、オペが失敗したことを全員全く気にしていなかった。
 田中は入社式に出席者している女性たちはみな生産するために集められた人たちだとわかった。
 (亡くなった彼女のようになるかもしれないのになぜ入社式に出ている人たちは何もなかったように、平気でいられるのだろう?)とまた恐怖を感じた。
 もとの入社式に早く戻らなければ!と出口を探してこっそり別の扉から出る。
 するとそこは晴天が広がり白いアーチ型の休憩所等がある広い公園だった。
 (やった!外だ!外に出られた!)
 手を繋いで歩く親子の姿が見え田中は安心する。
 安心したのも束の間、スーツを着てサングラスをかけた男たちの集団が幸せそうに散歩中の親子を捕まえ泣き叫ぶ子供にかまいもせず奥へと連れていく。
 穏やかな公園は一瞬で逃げ惑う人々の叫び声と子供たちの泣き声で包まれる。
 田中も必死になって逃げるがしゃくれた顎のガタイのいい男に捕らえられ引きずられていく。
 連れてこられた先は社長室で社長が後ろで手を組み仏のような笑顔で待っていた。
 田中はガクリと膝をつく。怯える田中に社長は優しく声をかける。
「君は確か田中君だったね?」
 社長の優しい声に田中は必死に懇願する。
「しゃ、社長!社長!私は何も!なんでもします!」
 社長はポンと田中の肩に手を置く。
「田中君、驚いただろう。ここの人たちはみんなおかしくなっているんだ。ストック肉だよ。」
「ストック肉?」
「僕は後継者を探していたんだ。玉城くんは死んでしまったし、君はぁ店長として頑張ってくれているみたいだね。今後君を専務としてこちらの業務を手伝ってもらえるかな。よろしくね。期待しているよ田中君。」
「・・・・・・は、はい。」

 ******

 田中が目覚めたときには自分の家のベッドの上だった。どうせ寝るだけだからと借りたボロボロのアパートのワンルームにどうやって帰ってきたのかすら覚えていない。
 昨日のことは夢だったのかもわからない。酷くつかれていたがそれはいつも通りの朝だった。
「まだ四時かぁ、会社行きたくないなぁ。会社爆発しないかな。」
 田中はしばらく天井を見上げボーとする。
 (昨日のことは夢だよな、でないとおかしい。夢じゃなかったら俺は今日からあの精肉事業の専務だ。てか昨日俺はどうやって帰って来たんだっけ?自転車あるかな?あれがないといつもより三十分も早く家をでないといけない。後で下の駐輪場を見に行くか。)
 そんなことを考えながらベッドの上でダラダラしていると四時に起きたはずがいつの間にか六時になっていた。
 (起きたくないけど起きるか。)と思いながらテレビをつける。
『速報です。現在○✕スーパーの建物が爆発を起こし大規模な火災が発生しております。』
 田中は体を起こしてニュースを見る。映像の端には玉城と幸枝さんが小さく写っていた。包帯を巻いている玉城を幸枝さんが肩に腕を回させ支えながら歩いていた。
 (玉城!あいつがこの爆発をやったのか!社長死んだかな?)
 映像の中の田中の職場はドカン!ドカン!と音を立て現在進行で爆発し所々で火の手が上がる。
 そのニュースを食い入るようにしばらくみていた田中だったが、またゴロンとベッドに横になり伸びをする。

「あ~きっと今日は会社休んでいいな。」

 ******

 --数年後

「田中専務、社長の首はどこに置きましょう?」
「あ~ここに置いておいてくれ。」
 ホルマリンの入った瓶に入れられた社長の首を社長席のデスクの上に置く。
「さすが社長、相変わらず仏のようなご尊顔ですね。」
 田中は満足気に社長の生首に微笑むと、社長室から出て外へ向かうと広々とした敷地にある白いドーム型の建物の中へ向かった。
 ドームの中は芝生が広がり、蝶が舞い花笠乱れていた。
 その中に虚ろな表情にボサボサの髪、手足や顔の半分に火傷の痕がある女性がブツブツと呟きながら花びらをパラパラとちぎっていく。
「広末さん、良いストック肉を産んでくれてありがとう。」
 広末は田中が話しかけても全く無反応でぼんやりとどこか一点を見つめながら「玉城さん、玉城さん」とつぶやいている。
 そんな姿を田中はニコニコと後ろに手を組みながら見下ろす。
 田中の広末を見る目はもはや同じ人間をを見る目ではなく冷たく、笑っているが目だけはまったく笑っていなかった。
 田中はパン!っと手を叩き、芝生で思い思いに過ごす人たちに向かって呼びかける。
「さあ、みなさん今日もがんばって生きましょう!」

 

 

★★★★★★★

最後まで読んでいただきありがとうございました。

この小説について

この夢を見た時ちょうど僕はIT系の企業に転職したばかりでした。

全員「さん」づけなのはIT企業だったし、まぁ分かりますが。

社員同士悪口は言わない。とかの決まりがあったのですがSlackで微妙な言い回しの言葉があったら全社員が見れるチャンネルで「それはパワハラです。言い方に気をつけましょう。」とメンションしたり。。。

出社した際には新人の悪口を「テレワーク目当てで入ってきて使えない」と言ったり、シークレットのメッセージで悪口を言っていました。

最先端で働いている自信もある人たちで自分たちは正しいというか変なドヤ感もある人たちでとにかく、ぼくにとっては気持ち悪かったです。

派遣で入ったので結局三か月で更新せずに辞めたのですが、こんな夢を見るなんて相当精神的に参っていたようです。

自分に合わないなって何となく分かりますよね。

まったくスキルのないぼくでもなんとかなっています。みなさんも無理せずに自分を大切にがんばっていきましょう。